使徒言行録2章1~8節 2025年6月8日(日)ペンテコステ合同主日礼拝
牧師 藤田浩喜
今日はペンテコステ(聖霊降臨日)です。ペンテコステという言葉を皆さんは聞いたことがあると思います。この日はどんな日だったでしょう? この日、イエス様のお弟子さんたちは、エルサレムにあったある家の2階に集まっていました。そのお弟子さんたちに聖霊が与えられました。彼らの上に聖霊が降りました。その日がペンテコステだったのです。
イエス様は天に昇られ父なる神様のもとへ行かれました。イエス様は天に昇られる前、お弟子さんたちにおっしゃったことがありました。一つのことは「エルサレムから離れないで、父なる神様が約束されたものを待ちなさい」ということでした。約束されたものは聖霊でした。そしてイエス様は、こうもおっしゃいました。「あなたがたの上に聖霊が降ります。するとあなたたちに力が与えられます。そしてあなたがたは、エルサレムだけではなく、ユダヤとサマリア、世界の果てまでわたしのことを伝えるようになるでしょう。」イエス様はこのような約束をされました。そして、イスラエルのある家の2階に集まっていた弟子たちに、イエス様が約束されたように聖霊が降ったのです。
聖霊は「風」によくたとえられます。風は「風が吹いているな」と分かりますが、風そのものは見えませんよね。聖霊も本来は目に見えないものです。ところがどうでしょう。弟子たちに聖霊が降った時こんなことが起こったのです。「一同が一つになって集まっていると、突然、激しい風が吹いてくるような音が天から聞こえ、彼らが座っていた家中に響いた」。台風のような強い風が吹くと、恐いぐらい大きな音がしたり、家中が揺れたりしますね。ちょうどそれと同じようなことがこの時起こったのです。
それだけではありません。「そして炎のような舌が分かれ分かれに現れ、一人一人の上にとどまった。」その家の2階にはイエス様のお弟子さんたちがいました。その数は120人ほどだったと言われています。そのお弟子さんたち一人一人の頭の上に、赤い舌のようなものがとどまりました。聖霊は本来目では見えないものですが、イエス様がバプテスマのヨハネから洗礼を受けられた時、鳩の形のような聖霊がイエス様に降ったと、聖書に書かれています。今日礼拝に来られた皆さんに鳩サブレをプレゼントするのですが、それはそんな理由があるからです。ところがペンテコステの時には、一人一人のお弟子さんの頭の上に、赤い舌のような聖霊が降ったのでした。
そしてそれだけではありません。次の瞬間びっくりするようなことが起こったのです。「すると、一同は聖霊に満たされ、‘霊’が語らせるままに、ほかの国々の言葉で話しだした。」「舌」というのは、話をするときに必要なものです。お弟子さんたちは舌のような聖霊が降るとどうなったのか? 一人一人が色んな言葉で話し出したのです。たとえて言うと、あるお弟子さんは英語で、あるお弟子さんは中国語で、あるお弟子さんはドイツ語で、あるお弟子さんはスワヒリ語でというように、違った言葉で話し出したのです。
集まっていたお弟子さんたちは、みんなイスラエルのガリラヤ生まれ、ガリラヤ育ちの人たちばかりでした。彼らはガリラヤ地方で使われていたアラム語以外に話すことはできませんでした。外国の言葉を勉強したことはありませんでした。皆さんは小学生になると、日本語の他に英語を勉強しますよね。たけるくんやはるかさんは、お母さんから中国語を教えてもらって少し知っているかもしれません。大学生になるとドイツ語やフランス語、スペイン語を勉強する人もいるかも知れません。ところがイエス様のお弟子さんたちは、故郷の言葉アラム語しか話せませんでした。そうであったのに、一人一人がそれぞれ習ったことのない外国の言葉で話し始めたのです。
そのことは、「七週の祭り」というユダヤのお祭りのためにエルサレムに来ていた大勢の人々を驚かせました。イエス様の時代、「過越しの祭り」、「七週の祭り」、「仮庵の祭り」の時には、多くの国々から神様を信じる信仰者が、エルサレムの町に集まってきました。ヤハウェの神様を信じる人は、当時の世界の色んな国々に散らばって暮らしていました。そんな信仰者たちがお祭りの時にはエルサレムに集まって、神様を礼拝していたのです。
そのユダヤの人たちはユダヤの言葉であるアラム語だけではなく、当然ですが自分の暮らしている国の言葉も話すことができました。そのような外国からやって来たユダヤの人々が、自分の国の言葉を聞きました。ガリラヤ生まれ、ガリラヤ育ちのお弟子さんたちが、自分の住んでいる国の言葉を話している。しかも「神様がどんな大きな御業をなさったか」を一生懸命語っている。その様子を見聞きして、びっくりするしかなかったのです。その人たちが聞いたのは、その人たちが生活する時に使っていた言葉でした。聞いていて一番よく分かる自分の国の言葉でした。そんな毎日使っている言葉で、神様がイエス・キリストによってなしてくださった大いなる御業について聞いたのです。ですから弟子たちの話す言葉が、まっすぐに心の中に入ってきたのではないでしょうか。
ペンテコステの日に、聖霊が弟子たちの上に降りました。聖霊を与えられてお弟子さんたちは、神様の大きな御業、イエス様が十字架と復活によって成し遂げてくださった大きな恵みを、聞く人の心に届くようにそれぞれの国の言葉で語ることができました。この日起こったことは、本当にびっくりするようなことです。
しかし、お弟子さんたちに与えられたのと同じ聖霊が、皆さんにも与えられています。皆さんはこう思っているかもしれません。「お友だちや周りの人たちにイエス様のことを教えてあげたいけど難しいな」。「どうしたら、イエス様のことを分かってもらえるだろう」。そんなふうに悩んでいる人もいるかも知れません。でも、心配することはありません。聖霊なる神様が、皆さんに力を与えてくださいます。伝えたいと思っている人の心に、まっすぐに届く言葉を与えてくださいます。すぐにはできなくても、いつか必ずイエス様が伝わるように導いてくださいます。私たちは、聖霊の働きを信じて進んでいきたいと思います。
ここからは大人の人たちに向かってもう少し語りたいのですが、今日お読みした旧約聖書の箇所は有名なバベルの塔の物語でした。人間たちはその時、同じ一つの言葉を使って生活していました。そして、人々は驕り高ぶり、高慢になって、神様のところにまで届く高い塔を築きはじめます。人間の力を誇るために建てていたのがバベルの塔でありました。それは科学や技術が進歩し、神様の領域にまで踏み込もうとしている、現代の人間の姿でもあります。
神様はそんな人間の姿を天からご覧になり、その高ぶった企てを阻止されます。
そしてそのためになさったのが、彼らの語っていた言葉を乱される、通じなくされるということでした。言葉が通じなくなった人間は意思疎通ができなくなり、バベルの塔を建てることができなくなったのです。これは人間が思い上がり神のようになろうとするならば、自ら破滅を招くことが示されているのでしょう。
このバベルの塔の物語に対して、言葉が通じ合い、交わりが回復された出来事が、このペンテコステ・聖霊降臨だったというのです。人と人との交わりが回復する。本当の意味で人々が協力して良き世界を創っていく。そのために神さまは人間に聖霊を与えてくださったのです。神さまは人と人とが理解し合い、協力して良き世界を創っていくために、一つの同じ言語をお与えになったのではありませんでした。同じ日本語を使っていても、私たちの社会を見れば分かるように、互いに理解し合えるとは限りません。同じ言語を使っていても、社会は分断されてしまうのです。そのような人間世界の交わりを回復するために、神様は聖霊を下されました。なぜならば聖霊を受け取り、神様との交わりをまず回復することによって、人間同士の交わりが回復されるからです。聖霊を注がれ、高ぶりを砕かれ、神様の御前に謙遜に生きることによって、人と人との関係が回復されるからです。神さまとの垂直の関係が正しくされて初めて、人と人の水平の関係が回復されるからです。
そして、先ほど申しましたように聖霊は一人一人の上にとどまり、各人はそれぞれ違った国の言葉で、神様の偉大な御業、イエス・キリストによって成し遂げられた御業を証しし始めました。福音の宣教はその初代教会の始まりの時から、
画一的ではなく多様であったのです。聞く人の状況や聞く人の願いに応えることができるような多様性と柔軟性を備えていたのです。現代は多様性・ダイバーシィを重んじる時代です。私たちキリスト教会はその誕生の初めから、多様性と柔軟性を湛えていたことが分かります。聖霊は同じ唯一の“霊”の働きですが、“霊”は望むままに、一人一人に分け与えられます。そして多様な働きをすることによって、人々を神様のもとに導く、救いの業を成し遂げていくのです。聖霊の風は、初代教会だけでなく今の私たちにも吹き続けています。その聖霊の働きに押し出されて、福音の宣教へと歩み出してまいりましょう。お祈りをいたします。
【祈り】主イエス・キリストの父なる神様、あなたのお名前を褒め称えます。
今日は子どもも大人も一緒にペンテコステ礼拝を守ることができて、ありがとうございます。神様あなたは今も私たちに聖霊を与えてくださっています。そしてイエス様によって成し遂げられた大きな恵みの業を、周りの人々に知らせるように励ましてくださいます。一人一人は小さな力しか持っていませんが、どうか聖霊によって私たち勇気づけてください。そして、私たちが聖霊に助けられて良き世界を一緒に創っていくことができるように強めていてください。今日から始まる一週間、一人一人の歩みを支えていてください。このひと言の小さなお祈りを、イエス様のお名前によってお祈りいたします。アーメン。
【聖霊を求める祈り】主イエス・キリストの父なる神様、今日はペンテコステ・聖霊降臨日です。主イエスが約束してくださったように、あなたは初めの教会の群れに聖霊を与えてくださいました。そして聖霊は今でも教会に、私たち一人一人に注がれています。どうか、子どもと大人が一緒に守る今日の合同礼拝の上にも、聖霊を豊かに与えてください。そして、聖書を通してあなたの御心がはっきり分かるように、私たちを導いていてください。このお祈りを主イエス・キリストの御名を通して御前にお捧げいたします。